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東京地方裁判所 平成8年(ワ)19191号 判決 1998年7月28日

原告

大東京火災海上保険株式会社

被告

株式会社グリーンキャブ

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一〇一九万八五二〇円及び被告株式会社グリーンキャブは平成八年一〇月一六日から、被告木村悟は平成八年一〇月二五日からそれぞれ支払済みまで右金員に対する年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告らの負担とし、その一を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立(原告)

一  被告らは、原告に対し、各自金一二七四万八一五〇円及び被告株式会社グリーンキャブは平成八年一〇月一六日から、被告木村悟は平成八年一〇月二五日からそれぞれ支払済みまで右金員に対する年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求めた。

第二事案の概要

一  信号機によって交通整理の行われているY字型の交差点において、これを青信号に従って直進していた自動車に対して、後方から走行していた自動車と前方を右折しようとしていた自動車の二台が追突した。本件は、後方から追突した自動車の運転者の加入していた自動車保険の保険会社が、運転者に代わって青信号で直進していた自動車の運転者に賠償金の支払いをなしたので、前方を右折しようとしていた自動車の運転手とその使用者に対して求償金の支払いを訴求したものである。

なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

二  争いのない事実等

1  本件事故の発生(争いがない。)

(一) 日時 平成二年一二月三〇日午前一時二〇分ころ

(二) 場所 足立区小台二丁目四六番先路上

(三) 当事者

(1) 普通乗用自動車(練馬五五く三五九六、以下「木村車」という。)

運転者 木村悟(以下、「木村」という。)

所有者 被告株式会社グリーンキャブ(以下、「被告グリーンキャブ」という。)

(2) 普通乗用自動車(足立五九に九〇五三、以下「小林車」という。)

運転者 訴外小林俊介(以下、「小林」という。)

(3) 普通乗用自動車(練馬五二ひ三七三九、以下「鈴木車」という。)

運転者 訴外鈴木曜(以下、「鈴木」という。)

(4) 被告木村は、被告グリーンキャブに雇用されており、本件事故当時は被告グリーンキャブの業務として木村車を運転していた。

(四) 前記道路付近交差点を扇大橋方面から江北橋方面に直進進行していた鈴木車に、鈴木車の後方を進行していた小林車と、江北橋方面から小台橋方面に右折進行しようとした木村車が衝突した(但し、責任原因に関係して事故の細部については当事者間に争いがある。)。

(五) 本件事故により鈴木は、右上腕骨外科頸骨折及び左膝蓋骨骨折の傷害を負った(但し、鈴木に発生した損害については争いがある。)。

2  小林と原告との保険契約(甲第二号証)

原告は小林との間で、次のような内容の保険契約を締結した。

(一) 保険の種類 PAP

(二) 保険の目的車両 普通乗用自動車(足立五九に九〇五三)

(三) 保険金額 対人無制限、対物金二〇〇万円、搭乗者傷害金五〇〇万円、自損事故金一四〇〇万円、無保険傷害金二億円

(四) 保険期間 平成二年二月五日から平成三年二月五日まで

3  原告による鈴木への損害賠償金の支払い(甲第四号証)

原告は、右保険契約に基づき、小林の鈴木に対する損害賠償債務について平成三年二月八日から平成七年一〇月二〇日にかけて、合計金三二二三万六三〇〇円の保険金を支払った。(なお、このうち金六七四万円は自賠責保険による支払い分である。)

三  原告の請求原因

1  原告は、本件事故は小林と被告木村の過失が競合して発生したものであって、小林は民法七〇九条により鈴木に賠償責任を負うが、被告木村も同条、被告グリーンキャブは同法七一五条及び自賠法三条に基づき同様に鈴木に賠償責任を負うもので共同不法行為(民法七一九条)が成立する。なお、その過失割合は各二分の一ずつである。

2  原告は、右の保険金支払いにより 鈴木の損害に対する賠償について共同の免責を受けたもので、これにより商法六六二条に基づき小林の共同不法行為者の相互間の求償権を代位取得した。そこで、原告は被告らに対して、各自、原告の支払った金三二二三万六三〇〇円から自賠責保険による支払い分である金六七四万円を差し引いた金二五四九万六三〇〇円の二分の一である金一二七四万八一五〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(被告グリーンキャブについて平成八年一〇月二五日、被告木村悟について平成八年一〇月一六日)からの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  争点

被告らは、<1>まず事故原因を争い、本件事故は小林のみの一方的過失によって生じたもので、被告らに賠償責任がないと主張し、<2>また、鈴木の損害についても争い、<3>さらに、右がいずれも肯定されたとしても、原告の請求については消滅時効が成立していると主張していて、これらが認められるかが本件の争点である。

第三当裁判所の認定

一  本件事故の責任原因

1  乙第一号証ないし第一三号証によれば、本件事故の状況は以下のようなものであったと認定できる。すなわち、<1>本件交差点はY字型の交差点であり、扇大橋方面から江北橋方面に向かう車両に対して信号機が青色を示しているときには、江北橋方面から進行する車両に対しては直進青の矢印が示される。<2>鈴木車は、扇大橋方面から江北橋方面に向い青信号に従って進行しており、木村車は江北橋方面から進行してきたが、小台橋方面に向けて右折を開始したが、反対車線に入ったところで停止しようとした。<3>鈴木は、木村車を見てブレーキを踏んだところ木村車が停止しようとしているのを見てブレーキからアクセルに踏替えようとしたが、そのとき、鈴木車の後方を時速約八〇キロメートルで走行していた小林は、前方の注視を欠いていたため(なお、小林は酒気帯び運転であった)、減速した鈴木車を発見して急ブレーキを踏んだものの止まりきれず鈴木車に追突し、その衝撃で押し出された鈴木車は前の木村車に衝突した。

2  本件事故については、当初は木村車は反対車線に半分くらい出ていたとされていたが、後の事故当事者が全て揃って行った実況見分に基づいて訂正され、それによれば木村車は反対車線に入ったが、なお、鈴木車が通抜けられる余地があったものと認められる。しかし、右を前提としても木村車は反対車線に進入していたことは認められ、また、鈴木車が小林車に追突されて斜めになったとは認められるものの、木村車と鈴木車とが衝突したのも反対車線上であると認められる。そして、木村車との衝突によって鈴木車に相当の衝撃を与えたものと認めることができる。

3  右を前提に、木村の過失を検討すると、本件においては、木村車は対面信号は直進青矢印で右折ができない状態であったのであるから、赤信号で進行して青信号で進行してきた車の進行を妨げたということができる。確かに、本件において木村車を発見した際の鈴木の対応を見ると、木村車の進入は通常の注意を払っていれば衝突を避けることのできる可能性が高かったというべきではある。しかし、それでも、仮に、前方の注視を欠いた直進車が、木村車と衝突したとすれば、木村には、かなりの割合の過失が肯定されるのであって、本件においても木村の過失を否定することはできない。本件では、衝突したのは前方の注視を欠いた直接の当事者車両ではないことや、鈴木車が小林車に追突されることにより斜めにならなかったとすれば衝突しなかった可能性が高いと認められることからすると、単純に赤信号で進行して青信号で進行してきた車両の進行を妨げた場合と過失割合において同視すべきことはできない。また、先に述べたように木村車の進入は通常の注意を払っていれば衝突を避けることのできる可能性が高かったという点もある。これらの事情を総合すると、木村(被告ら側)に四割の過失を認めることができる。

二  鈴木の損害

本件においては、原告は鈴木について右のような損害が発生したことを認め、任意に損害賠償金を支払った。

1  治療費 金 八〇七万七八七五円

甲第六号証、第七号証により認めることができる。

2  付添看護料 金三二万五二四八円

甲三号証の一、第八号証の一ないし三によると、六六日間の付添いをした事実が認められ、これは鈴木の負った障害程度からすると相当なものと認めることができる。一日について母親の平均の日給相当額である金四九二八円として計算しているが、これも当時として相当な額と認められる。

3  通院交通費 金一五万七四六〇円

甲第九号証により認めることができる。

4  入院雑費 金二二万三〇〇〇円

甲第六号証、第七号証によると、二二三日の入院の事実を認めることができ、一日金一〇〇〇円としての算定は、相当なものと認められる。

5  休業損害 金七九二万八四五六円

甲第一〇号証の一ないし四によれば、右金額を本件事故と相当因果関係に立つ休業損害と認定することができる。

6  後遺障害逸失利益 金一〇一四万三八五八円

甲第三号証の二によれば、鈴木は後遺障害等級一二級六号に相当する後遺障害があると認められるところ、その労働能力喪失率は一四パーセントと評価し、当時三八歳であった鈴木の労働能力喪失期間を二二年として中間利息をライプニッツ係数で控除した右金額は逸失利益の算定として相当なものと認めることができる。

7  慰謝料 金 五三八万〇四〇三円

弁論にあらわれた諸般の事情を考慮すると右慰謝料は相当な額であったといえる。

以上のように、原告の右金額の合計金三二二三万六三〇〇円の支払いは、いずれも相当因果関係内にある損害についてなされたものであり 白賠責による支払いの分を差し引いた金二五四九万六三〇〇円について、前記の被告ら側の過失割合である四割の金一〇一九万八五二〇円について、小林の求償権を代位行使することについて何ら妨げはない。

三  時効について

なお、被告らは、原告の本件請求権は時効により消滅したものであると主張する。しかしながら、本件において原告が代位行使する小林の被告らに対する共同不法行為者間の求償権は、通常の債権として一〇年の消滅時効にかかるものであり、その起算点は支払いをなした時点からと解される。本件においては、原告が最初に支払いをなしたのは平成三年二月八日であり、本件訴状送達の日は前記のとおりであるから、被告らの消滅時効の主張は失当である。

第四結語

よって、本件の原告の請求は各自金一〇一九万八五二〇円及び被告グリーンキャブは平成八年一〇月一六日から、被告木村悟は平成八年一〇月二五日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとして、訴訟費用について民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文、仮執行宣言について同法二五九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 馬場純夫)

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